アキラさんが妊娠したと知った時は、まだ16だったから驚きが大きくて喜ぶことなんて出来なくて…。
お相手の進藤さんのこともよく知らなくて、まさかアキラさんとお付き合いしてることも知らなかったから、呑気に中国なんて行ってる場合じゃなかったと後悔したわ。
まだ結婚出来る年齢ではなかったし、これからのアキラさんの人生の重荷になってはいけないと、私も行洋さんも反対したけれど、アキラさんも進藤さんも諦めてくれなかったの。
最終的には私達が折れて、生まれた子は事情があって子供がいない私の従姉妹、賀茂陽子ちゃんに引き取ってもらうことになって、行洋さんが七大タイトル制覇を結婚の条件にした上で、進藤さんを関西所属に変えてアキラさんと会えないようにしてしまった。
(行洋さんも怒ってたわね)
七大タイトルなんてそう簡単には制覇出来ないし、昇君も進藤さんも簡単に会える距離にいなければ、アキラさんも忘れてくれて、別の方と結婚する気になるだろうと思っていたのだけど…甘かったわ。
(どれだけお見合いを奨めても見向きもしないで、ヒカルさん一筋だったもの)
陽子ちゃんや桑原さん、森下さん達から、1年に1回ぐらいは3人で会わせてあげた方が良い…と、説得されて許可することになってしまった。
陽子ちゃんなんて、昇君の名前を進藤さんに付けて貰うようにお願いしたとか。
「どうして、名前決めさせるなんてしたの?」
「だって、ヒカル君の子供でしょ」
「忘れてほしいのに、そんなことしたら忘れられないじゃないの」
陽子ちゃんも森下さん達も、どうして進藤さんとアキラさんを認めてるの?
「忘れさせようとしても無駄よ。アキラちゃんも一途だし、進藤君は何年かかっても条件を達成してアキラちゃんと結婚するわよ。絶対!」
「………」
「だから明子も応援する方に回った方が良いと思うわよ。でないと絶対後悔するから」
陽子ちゃんは進藤さんのファンだから、そんなこと言えるのよ。
陽子ちゃんは毎年、昇君との家族写真が入った年賀状を送ってくれて…。
毎年写真を見てるうちに、私の初孫だし徐々に会いたい気持ちが増してきて…。
(私がこういう気持ちになると読んでいたのね…陽子ちゃん)
でも、こちらから出した条件があるから、会いに行くなんてプライドが許さないこともあって辛かったけれど、進藤さんが漸く条件を達成して、2人は結婚。
(進藤さんが挨拶に来た時は、淡々と対応してたけれど…)
心の中では、やっと、これで昇君に会えるわ~楽しみね~。
…なんて思って楽しみにしていたのだけど、中々家に来てくれないのよ。
「嫌われてはないと思うけど、ヒカルさん達と一緒に居られなかった理由を知ってるから、色々思う所があるんじゃないの」
陽子ちゃんか電話の向こうで笑っている。
「………」
昇君は陽子ちゃんに似たのね。
陽子たゃんは意地悪されたりすると「怒ってません」って顔して、しっかり倍で仕返ししてたものね。
今、私は昇君に仕返しされているんだわ。
こんなことなら、意地を張らずに進藤さんとアキラさんの結婚を認めれば良かったかも。
は~~あ…。
とにかく今は焦ってはダメ。
もうすぐ生まれる2人目を昇君の分まで可愛がりながら、昇君との距離を縮めていこうと思ってたんだど…。
気が付いたら、昇君は生まれたばかりの孫を連れて、陽子ちゃんの所ばかり泊まりに行って、うちには泊まりに来てくれない。
「昇が明子の所に泊まりに行くまで、10年かかったりしてね」
「えっ?」
「…冗談よ」
私が固まってるなんて知らない陽子ちゃんは、電話の向こうで笑っていた。
(冗談に聞こえないんだけど…)
昇君が家に初めて泊りに来たのは、本当に10年後だった。