ONE YEAR 02
(ヒカルサイド)

「お父さん、今年こそ7大タイトル制覇だね」

息子よ…会った途端にそれですか。
気持ちは、とてもよく解かるけどな。
9年も待たせてるし…。
今年こそ7大タイトル制覇して、家族3人で暮れるきっかけにしたい。

あっ、オレとアキラの息子、賀茂昇。七夕生まれの今年で9才。
昇を引き取って育ててくれてるのは、明子さんの従姉妹夫婦。
奥さんが明子さんの従姉妹だそうだ。

「名前考えてくれないかしら」

生まれてくる子供が男の子と判った時、明子さん達に内緒で連絡をくれた奥さん。
アキラにもオレが決めて良いっていうから、一生懸命考えて昇と付けた。
賀茂昇って語呂が悪くないか?…と思ったんだけどさ。

「近いうちに進藤になるんだから良いんじゃない。進藤昇って良い名前だと思うわよ」

賀茂の奥さんは、そう言って笑ってくれた。
あくまでも3人で暮らせるようになるまでと承知上で、昇を育ててくれていて感謝しかない。

「お父さん、お母さん、これ見て」

えっ、棋譜が3枚?いきなりどうしたんだ?

「和谷お兄ちゃんと伊角お兄ちゃんと、社お兄ちゃんに打ってもらったんだ」

昇のことは公表されていないだけで、囲碁界では暗黙の了解で、和谷や伊角さん、柰瀬がネットを打ってくれたりしている。
社なんか、豚まん持って頻繁に昇の所に遊びに行って、写真を撮りまくってる。

「僕、院生になるから」

「えーっっ!!」

ビックリし過ぎて、アキラとハモって叫んでしまった。
昇によると和谷が推薦してくれてるらしい。
おい、和谷、聞いてないぞ。

「もし昇がオレ達の子供たってバレたらどうするんだよ」
「バレる前にお父さんが7大タイトル取って、3人で暮らすことを許してもらえば良いんだけじゃん」
「確かに…」

おいっ!
アキラ!昇の言葉に納得するなよ。
まあ、昇の意見も、その通り!…と言うしかないんだけどな。

「僕、もっと沢山の人と打ちたし、兄弟欲しいから僕なりに頑張るよ」
「昇……」

昇は院生になって、塔矢先生に碁打ちとして、孫として認めてもらおうとしてるらしい。

大阪に住むようになって10年。

「7大タイトルを取ったら、もう1度塔矢先生に結婚のお願いに行くから」

と、アキラに約束しなのに、10年経っても果たせてない。
あと1つのタイトルが遠い。
アキラや昇にも待たせまくってる。
昇が考えて動いてるんだから、オレも今年こそは7大タイトルを取る!
絶対に!

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