たまたま原稿を棋院に原稿を届けに行った帰り信じられない言葉が聞こえてきた。
(えっ?塔矢が事故)
言葉の意味を理解したオレは、電話を受けてた人に食って掛かってた。
塔矢は今日、大阪で対局の筈だ。
「塔矢が事故ってどういうこことだよっっ!!」
「進藤本因坊…落ち着いてください…」
これが落ち着いてられるか!
状況を教えてもらうまで動かないぞ!って感じの勢いだったけど、結構 すんなりと教えてもらえたから、すぐに東京駅に向かった。
(一刻も早く塔矢の所に行きたいのに)
なんでこんな時に電車遅れてるんだよっっ!!
早く塔矢の所に行きたくてイライラしてたら、社からメールが届いた。
『塔矢が事故にあって病院運ばれた話知っとるか?』
『たまたま棋院で聞いた』
『こんな時に言う事ちゃうかもしれんけど、塔矢なんか様子が可笑しかったで』
『えっ?』
『体調悪いんかって聞いても、そんなことないって言ってたけど。進藤、なんか知っとるか?』
社からのメールにオレは考え込む。
塔矢の様子が可笑しい? いや、オレの前ではいつもと変わらなかったけど…。
(変わらなかったよな?)
社から言われ言葉に不安になりながら、オレは大阪に向かう。
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「進藤君、どうして?」
塔矢先生と明子さんがオレを見てビックリしている。
東京の方に連絡入れて3時間ぐらいしか経っていないのに、オレがここにいるんだから当然かもしれない。
「棋院の事務の電話を偶然聞いちゃって……」
「そうか……」
先生達は昨日韓国から帰国したばかりなのに、こんなことになるなんて。 昨日先生達が帰ってきてるからと検討を早めに切り上げて帰る時に
「明日の対局頑張れよ」
って言って別れたんだよな。
その時も塔矢は変わった様子はなかった。
だから、社の言ってたことは考え過ぎなんじゃ?と思うけどちょっと気になる。
先生が掛け合ってくれて家族でもないのに、オレは集中治療室に入ることが出来た。
「進藤さんが側に居たら起きてくれそうな気がするから……」
そう言ってくれた明子さんは泣いてた。
「塔矢……」
色んな機械に繋がれてる塔矢を見てると、不安が襲ってきて足元が崩れそうな感覚がする。
(なんでこんなことに…)
しっかり者のお前が赤信号に気付かなくてトラックにはねられるなんて…。
昨日は久し振りにお互いの休みが重なって打って、当たり前の日常だったのに…。
疲れてたのか?
ちゃんと昼メシ食えって言っただろ。
「もしも塔矢がいなくなったら……オレ……オレ……」
生きていけない……。
佐為、頼む!!塔矢を連れて行かないでくれ!
お願いだから!!
