大学とバイト先で、この噂で持ちきりで大変なんだよ~~。
「進藤、お前彼女出来たんだって」
「あんな美人な彼女羨ましい」
「と塔矢は彼女なんかじゃ…」
「そんな見え透いた嘘をつくなよな」
「…………」
こんな会話を何回繰り返したか…。
あと、女流棋士で初めて名人のタイトルを取ったってことで、テレビや雑誌で特集されてたから、塔矢を知ってる奴は知っている。
「有名人が彼女って大変じゃないのか」
なんて聞かれたりもして…。
塔矢は彼女なんかじゃないって何回言っても信じてもらえないから、もう諦めました……。
しかも囲碁部ではさ。
「もう彼女で良いんじゃない。進藤には、あれぐらい確りした人がお似合いよ」
「それは一理あるね」
「金子ぉ~筒井さぁ~ん」
なに勝手なこと言ってるんだよ。
それじゃあ、オレがしっかりしてないみたいじゃないか。
「それに…進藤君はプロ並みの実力なのに、僕達のせいで成績残せてないし…。塔矢さんとなら遠慮せずに打てるだろうし、そこに彼女だったら一石二鳥じゃないかな?」
「筒井さん……」
「オレもそう思うぜ」
「三谷…」
なななに言ってるんだよ!
「筒井さんも三谷も十分強いって、ただちょっと運なかっただけで…」
「運も実力のうちだからね」
「筒井さん……」
2人にかける言葉が見つからなかった。
…そんな話をしたのが、塔矢が初めて大学に来て台風を起こして帰った後だったな。
てか、どうやって、オレが通ってる大学調べたんだ?
佐為が教えたとか?
まさかな…。
「進藤」
えっ?
うわぁぁぁ。
「ででた~~~~」
振り向くと…塔矢がいたっ!
噂をすれば…ってやつか。
「なんでいるんだよ」
「指導碁がキャンセルになったから来たんだ。今から打とう!」
そうですか…。
「あっ、塔矢さん…いらっしゃい。ここの碁盤使って」
「ありがとう」
筒井さん……。
初めて塔矢を生で見た時は固まってたのに、今ではお茶用意して、オレ達の対局の棋譜付ける満々だ。
(オレがいない日に来て指導碁打って、しっかり筒井さん達を味方につけたんだよ…)
金子や三谷、他の皆もオレと塔矢の対局に興味津々って顔してるし。
は~~あ、打つしかないか。
渋々、塔矢の前に座る。
握ってオレが黒だな。
よしっ!
「「お願いしますっ!」」
………………
……………
…………
………
……
(やっぱり強いな……)
プロだから当然なんだけど。
やっぱり塔矢と打つのは楽しい。
(彼女か……)
筒井さんの言う通り、塔矢を彼女に出来たら一石二鳥かも。
碁は打ち放題だし美人だし。
そういえば塔矢のこと、碁のこと以外なにも知らないんだよな。
(今度、食事とか誘ってみるかな)
返り討ちにされるかも知れないけど……。